承継方法1【親族内承継】
親族内承継
親族内承継は事業承継全体の過半数を占めており、現経営者の子息・子女が後継者となるケースのほか、甥や娘婿、配偶者が後継者となるケースなどもある
<メリット>
・一般的に社内外の関係者から心情的に受け入れられやすい
・一般的に後継者を早期に決定し、長期の準備期間を確保できる
・他の方法と比べて、所有と経営の分離を回避できる可能性が高い
<デメリット>
・親族内に、経営能力と意欲のある者がいるとは限らない
・相続人が複数いる場合、後継者の決定・経営権の集中が困難
<留意点>
・後継者が学校卒業後に他社に就職に、一定のポジションに就いているなどの場合を含め、家業であっても早めにアナウンスをして本人の了解を明示的にとりつける取り組みが必要
1.関係者の理解
・後継者候補が複数いる場合は、意思疎通を図り、なるべく早期に後継者を決定し、後継者候補へのアナウンスと本人の明示的な了解を確認することが大切
・社内や取引先・金融機関に対して、事業承継計画を公表するなどの事前説明を行っておくことが重要
・後継者の会社経営を支える将来の役員や幹部の構成を視野に入れて、役員・従業員の世代交代を準備する
2.後継者育成
・経営に必要な能力・知恵を習得するために、社内・社外での教育を実施する
①社内での教育
・現経営者と後継者との事業についての対話
・自社の各部門のローテーション
・責任ある地位に就けて権限を委譲
②社外での教育
・他社勤務や子会社経営を通じて、幅広い人脈の形成や経営手法を習得
・中小企業大学校で実施している経営後継者研修や中小企業支援団体が実施するセミナーへの参加
3.「会社の魅力」の磨き上げ
会社の強み・弱みを現経営者と後継者が一緒に考えることが重要
・現経営者は、自社株式・事業用資産といった目に見える資産だけでなく、経営理念、ノウハウ、顧客とのネットワークといった目に見えにくい経営資源(知的資産)を後継者に伝えることが重要
・会社の実態を把握するために、現経営者と後継者が一緒に「事業価値を高める経営レポート」の枠組みに沿って考え、自社の沿革や知的資産、将来に向けた事業のあり方をまとめる取り組みが会社の磨き上げにつながる
現経営者が先代経営者から事業を引き継いだ際に、
「経営力の発揮」
「取引先との関係の維持」
「一般従業員との関係の維持」
など、目に見えにくい経営資源の承継に苦労している
アンケートグラフ
会社の強みは目に見えにくいことが多く、後継者が「経営」を承継するには、会社の強みの源泉となる知的資産(経営理念、人材、技術、ブランド、ノウハウ顧客とのネットワークなどの目に見えにくい資産)を把握する必要がある
知的資産の棚卸し → 自社の強み、弱みを知る
現経営者と後継者が、「知的資産の棚卸し」に共同で取り組む過程において、「経営の承継」がなされる
「会社の魅力」の磨き上げにも直結する
後継者は、把握した知的資産の状況に基づき、強みを生かし弱みを補うための取り組み(新たな知的資産の創造・獲得)を行い、業績の向上に結び付けることができる
(知的資産経営)
現経営者と後継者がお互いの理解を深めるためには知的資産の「見える化」が重要であり、「事業価値を高める経営レポート」の枠組みに沿って一緒に考え、自社の沿革や知的資産、将来に向けた事業のあり方をまとめる取り組みが効果的である
4.株式・財産の分配
株式・財産の分配においては
①後継者への自社株式、事業用資産の集中
②後継者以外の相続人への配慮
という2つの観点からの検討が必要
①後継者への自社株式、事業用資産の集中
・後継者が安定的に経営をしていくためには、後継者に自社株式や事業用資産を集中的に承継させることが必要
(株主総会で重要事項を決議するために必要な2/3以上の議決権の確保が目安)
・自社株式や事業用資産は経営者の相続財産に占める割合が高く、後継者に集中的に承継させると、後継者や会社は、自社株式や事業用資産の買い取りや相続税の納付のため、多額の資金が必要になるケースがあるため、専門家と相談して対策を検討する
②後継者以外の相続人への配慮
・生前贈与や遺言を用いる場合でも、後継者以外の相続人の遺留分による制限がある
5.後継者への生前贈与
自社株式等の生前贈与は、権利の移転が現経営者の生前に実現するもので、後継者の地位が安定する点で有効だが、以下の点に注意が必要
・生前贈与で分け与えた財産については、相続発生の際、後継者以外の相続人の遺留分による制約を受けるため、財産分配方針を決定したうえで計画的に行うことが必要
・令和元年7月1日より、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求ができるようなになる
また、請求を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合、裁判所に支払期限の猶予を求めることができる
*自社株式等の生前贈与をするときは、経営承継円滑化法「民法の特例」の活用も検討
②贈与税の課税制度の検討
・贈与税には以下の課税制度があるが、どの制度を採用するにせよ、現経営者の生前に計画的に事業承継に取り組むことが、円滑な事業承継のためには重要
【暦年課税制度】
暦年毎にその年中に贈与された価額の合計に対して贈与税を課税
110万円の基礎控除があるが、税率は10%~55%の累進課税
【相続時精算課税制度】
60歳以上の親(又は祖父母)から20歳(令和4年4月1日以降の贈与は18歳)以上の子(又は孫)への贈与について、選択制により、贈与時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算する制度
2500万円の特別控除があり、それを超えた額については一律20%の税率を適用
*上記のほか、経営承継円滑化法の「非上場株式に係る贈与税の納税猶予制度」の活用も検討
6.会社法の活用
現時点で既に自社株式が分散している場合には、可能な限り買取り等を実施して、後継者に自社株式を集約する
株式を分散させないためには、定款に譲渡制限規定を設けることが有効
自社株式の集中や分散防止対策として、議決権制限株式、拒否権付種類株式(黄金株)、相続人に対する売渡請求等の活用も有効
7.遺言の活用
遺言書を作成することで、後継者に自社株式、事業用資産を集中することが可能
ただし、遺言はいつでも撤回できるため、生前贈与と比べて後継者の地位が不安定となり、遺留分の問題や遺言書の有効性をめぐるトラブルが起こることもある
また、遺言書は相続発生後に開示されるため、当事者の思惑と異なり相続後の事業運営に支障をきたすこともあることから、計画的承継手法の推進を図ることなどの取り組みが大切である
各種遺言の中で、公正証書遺言が自筆証書遺言に比べて有効
8.経営承継円滑化法の活用
現経営者の生前に計画的に事業承継に取り組むにあたって、非上場株式に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除制度、遺留分に関する民法特例、金融支援といった中小企業経営承継円滑化法の活用を検討することも有益
9.個人保証・担保の処理
現経営者の個人保証について、後継者も連帯保証人に加わることを求められる場合がある
現経営者は、事業承継に向けて債務の圧縮に努めるとともに、「経営者保証に関するガイドライン」に基づいた金融機関との交渉や、後継者の負担に見合った報酬の設定等の配慮が必要である